Entry Site Managementについて

COVID-19パンデミック下のインターベンションにおける
Entry Site Managementの重要性

―備えあれば憂いなし、転ばぬ先の杖―

東邦大学医療センター大橋病院 循環器内科
教授
中村 正人 先生

中村 正人 先生

COVID PARADOX
-COVID-19パンデミック下で急性心疾患は減少しているのか?

昨今のCOVID-19の蔓延により、社会生活においてかつてないほどの行動変容が求められています。人々は互いに接触を避け、外出も制限される。こうした環境の変化は、受診や診療にも大きく影響し、特に高齢者の受診控えや投薬中断による心筋梗塞発症が問題になっています。ところが、COVID-19パンデミック後に急性心筋梗塞が4割以上減少したという米国の報告があり1)、他の主要国でも急性冠症候群(ACS)をはじめとする急性心疾患が4~5割減ったと言われています。しかし、感染症の炎症や自粛のストレスはプラークの不安定化に寄与する可能性があること、また、失業で保険が失効し受診しにくくなることなど、普通に考えればこうしたパンデミック下では疾患が増える方向にベクトルが向かうはずですがデータとしては減少している、この状態はCOVID PARADOXと呼ばれています2)

その後、2019年の院外心停止数は年間を通じて一定数で推移したが、2020年には約5倍の増加がみられ、この傾向はCOVID-19の流行とパラレルの関係にあることが報告されました(図1)3)。このように、ACS等の急性疾患が減少した一方で院外心停止が急激に増加している状態は、パンデミック下では感染リスクから救急隊が救急処置をしにくく、家庭内で発見された場合も迅速な処置がしにくい環境にあると言えます4)

図1 NYにおける COVID-19パンデミック下での心停止とCOVID-19による死亡の推移

図1 NYにおける COVID-19パンデミック下での心停止とCOVID-19による死亡の推移

パンデミック下でもSTEMI症例は血行再建を優先

ACS減少の一方で心停止とそれに伴う死亡が増加している現在は、急性心疾患をマネジメントする循環器医師にとって深刻な状況です。ACCやSCAIから出ているステートメントを要約すると、以下の3つが提言されています。1つ目は、急性発症例は躊躇なくQQをコールするよう一般市民に再啓蒙、推奨すべきということ。2つ目は、STEMIでは万全の体制でカテーテル治療を優先すべきであるが、同時にカテーテル治療はST上昇型心筋梗塞に限定すべきであること。3つ目は、感染リスクからスタッフを守る義務があることが述べられています。すなわち、患者に対しては積極的に受診を促し、また、その患者を積極的に治療する一方で、院内感染による医療崩壊を防ぐことが重要であると述べられています(図2)5)

図2 COVID-19パンデミック下の心筋梗塞マネジメントのポイント:SCAI、ACC、ACEPのステートメントより

図2 COVID-19パンデミック下の心筋梗塞マネジメントのポイント:SCAI、ACC、ACEPのステートメントより

感染リスク低減のためには合併症を減らすことが肝要

医療崩壊回避のためにも、患者接触時の感染リスクを低減するための対応が重要になります。待機的な症例は延期すること、緊急症例の中でも軽症例は保存的な管理も考慮すること、重症例は緊急で躊躇なく積極的に治療することが推奨されます。また、パンデミック下では無症状でも感染リスクがある前提で対応することが望まれるため、医療側の接触者や汚染範囲を減少、限局することが肝要です。しかし、習慣化されていないことを緊急時に運用することはなかなか困難です。

このような環境では、これまで以上に人と時間の効率を追求した治療法、できるだけ簡便な手技が求められます。長時間の処置は曝露時間が増え、複雑な手技は時間を要し、物品の出し入れも増えて感染機会が増大します。そして何より重要なのは、合併症を減らすことです。多くの手技で最も時間を要するのが合併症であり、中でも出血性合併症はカテーテル室滞在時間を延長させるだけでなく、長期入院も必要になります。感染リスクを下げるためには患者の滞在時間を短くする必要があり、よって出血性合併症を起こさないことが重要です。多くのRCTでRadialアプローチを行った場合とそうでない場合で生命予後が異なるという報告があるように、6,7)穿刺部の出血は単に出血性合併症だと捉えるだけでなく、生命予後に直結する非常に重要な合併症であると捉える必要があります8)

このことからも、穿刺合併症の低減に関連する橈骨動脈アプローチはガイドラインのクラス1、エビデンスレベルAの絶対的推奨手技となっています。患者背景が非常に悪い場合や手技が複雑になるものまで橈骨動脈アプローチにこだわる必要はありませんが、私の経験上全体の8~9割の症例は橈骨動脈アプローチが可能だと考えます。しかし、現実には橈骨動脈アプローチは十分に普及しているとは言えません。2016年のデータでは、橈骨動脈アプローチは8割以下、特にSTEMI症例では6割を下回っています9)。最新でもSTEMI症例では7割程度と報告されていますので、STEMI等の急性疾患については大腿動脈アプローチを第一選択としている施設も少なくないでしょう。

COVID-19パンデミック下におけるEntry Site Managementの重要性

このようにパンデミック下では、Entry Site Managementという考えはこれまで以上に重要になります。どの穿刺部を選択するかは、手技時間や出血性合併症の頻度、そして止血の難易度にも影響します。患者QOLのためだけでなく、生命予後の観点でも穿刺部の適切な選択は非常に重要になります。カテーテル手技はステント留置がすべてではなく、穿刺に始まり止血に終わるというのが治療の本質であると言えます。止血においても穿刺部に応じた適切な止血法が選択されるべきであり、トータルでマネジメントすることが極めて重要であることは言うまでもありません(図3、4)。実際、急性期治療の平均入院期間は、欧米がおおむね1週間前後であるのに対し、日本は2週間前後、米・英・仏と比較して3倍程度長いと言われています10)。COVID-19パンデミックのような、短期入院が望まれる環境下においては、入院期間を短くするためにも合併症をいかに減らすかが重要になります。

図3 止血まで考慮したEntry Site Management(テルモ株式会社提供)

図3 止血まで考慮したEntry Site Management(テルモ株式会社提供)

図4 アプローチに応じた止血方法(中村正人先生作成)

図4 アプローチに応じた止血方法(中村正人先生作成)

備えあれば憂いなし ―転ばぬ先の「杖」としての選択肢をもつ

現在、医療現場では人や時間の効率化が急務として求められていますが、緊急事態に陥ってから急に対応することはなかなか困難です。日ごろから変化に柔軟に対応できるようトレーニングを積んでおくこと、また、平常時から人や時間の効率といったものを意識した手技を実践しておくことが大切ではないかと考えます。日本において橈骨動脈アプローチは冠動脈疾患の標準になっていますが、まだまだ改善の余地が残されているだろうと思いますし、末梢疾患についても技術的なハードルはあるものの、出血性合併症を考慮すれば、EVTにおける橈骨動脈アプローチのポテンシャルを考える必要もあるのではないかと思います。合併症のリスクを低減するためにも、「備えあれば憂いなし、転ばぬ先の杖」として、「杖」となるべきアプローチとなるRadial EVTも選択肢の1つになるのではないかと考えています。

【文献】

  1. 1)

    Bhatt AS, et al. J Am Coll Cardiol. 2020 Jul 21;76(3):280-288.

  2. 2)

    Ebinger JE, et al. J Am Coll Cardiol. 2020 Jul 21;76(3):289-291.

  3. 3)

    Mountantonakis SE, et al. J Am Coll Cardiol. 2020 Sep 8;76(10):1271-1273.

  4. 4)

    Di Gioia G, et al. J Am Coll Cardiol. 2020 Sep 8;76(10):1270-1271.

  5. 5)

    Mahmud E, et al. J Am Coll Cardiol. 2020 Sep 15;76(11):1375-1384.

  6. 6)

    Jolly SS, Yusuf S, Cairns J, et al. Lancet. 2011 Apr 23;377(9775):1409-20.

  7. 7)

    Romagnoli E, et al. J Am Coll Cardiol. 2012 Dec 18;60(24):2481-9.

  8. 8)

    Kikkert WJ, et al. JACC Cardiovasc Interv. 2014 Jun;7(6):622-30.

  9. 9)

    日本心血管インターベンション治療学会. J-PCIレジストリー 2016 集計結果(2021年3月10日閲覧).

  10. 10)

    OECD (2021), Length of hospital stay (indicator). doi: 10.1787/8dda6b7a-en(2021年3月10日閲覧)

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